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ヴィットリオ・グリゴーロが『徴兵義務免除第一号』になったいきさつ(2000.5.1) [インタビュー&記事]

 ここ数年で、世界的に徴兵制を廃止する動きが一気に加速して、イタリアも2005年1月1日から完全志願制に移行しました。1985年生まれまでの青年たちをもって兵役の義務から解放されることになりました。歴史的に見れば、ナポレオン統治時代の1802年以来143年続いた伝統に幕を下したのです。私が、イタリアにいた頃は、どこに行っても、若い兵隊さんたちがいて、"Ciao, bella" なんて声をかけられたものですが、今は、そういう光景は見られなくなったということですね。(右の写真は、徴兵制度最後の若者800人)
 さて、1977年生まれのヴィットリオ・グリゴーロは、18才〜26才までの間に10ヵ月の徴兵義務を果たさなければなりませんでした。しかし、彼の経歴によれば
『イタリアでは、18歳以上の男子は10ヵ月間の徴兵義務が課されているが、 国際的に活躍する芸術家や文化人は例外的に免除される法律がある。ヴィットリオ・グリゴーロは、勉強の中断を避けるために兵役を免除された最初のイタリア男性だった。』
つまり、『徴兵義務免除第一号』ということです。しかし、これは、それほどすんなり免除が認められたわけではなく、グリゴーロが裁判で勝ち取ったもので、その経緯を書いた記事がありました。

『徴兵のための時間はありません。彼のようになりたいから』
国防省は彼の言い分を認めなかったが、ラツィオ州行政地方裁判所は、それとは反対に、彼に充分な正当性を認めた。22才のヴィットリオ・グリゴーロは、イタリアで最も前途有望な声で、徴兵義務を免除されることとなった。この決定は、毎年、軍隊の招集に応じるために仕事または勉強を中断することを余儀なくされるすべての若者たちの羨望の的となった革命的な判決である。ほとんど全部の若者が、責務を果たすように迫られ、"Signorsì,signore! (上官殿、そうであります)"と命令に答えるために出発しなければならないのに、ヴィットリオ・グリゴーロは、オペラ歌手として歌い続けるために家に留まった。トスカーナ生まれの若いテノールはこのことについて次のように説明した。「招集のハガキが届いた時、すぐに徴兵義務免除の申請をしました。僕は、実際に立法府の発令(1998年1月1日から有効)が存在することを知っていました。それは、科学的、芸術的、文化的キャリアにおいて、全国的、国際的水準で特別な功績、長所、価値(メリット)を持つ者に徴兵を免除するというものです。僕は子供の頃からテノールのようにずっと歌っています。私は、音楽家として奉仕していますから、国防省にそれを気づかせることは正当だと思いました。従って、徴兵を避けるために、なんらかの弁解とか口実にしがみついているのではなく、厳密な条件で法律によって規定されたものなのです。」

ヴィットリオ・グリゴーロが提出した意見は、事実、根拠のないものではなかった。若いトスカーナ生まれのテノールは、非常に熱心に芸術的活動をしていたし、彼のたくさんの仕事の契約は、数年先までも決まっていた。「僕はすでに世界中で色々な異なる契約書にサインしていました。」彼のローマの家で、若いテノールは、話しを続けた。「もし、軍隊の招集に応じるために、それらの契約を破棄しなければならないとしたら、多分、かなりの違約金を払うことになるでしょう。その点でも、誰が僕に払い戻しますか?国防省ですか?」

最初、国防省は、ヴィットリオ・グリゴーロの免除申請を棄却した。しかし、彼は屈っしなかった。彼の弁護士ジャンカルロ・ヴィリオーネ は、彼の理由を正当とするためにラツィオ州行政裁判所に訴えを起こした。そして、ついに彼の正当性を認める判決が出た。もし行政地方裁判所が彼の言い分を認めなかったら、パヴァロッティーノ(彼の特別な声に対する観客と評論家によるニックネーム) は、パヴィアの兵舎に3月22日に出頭しなければならなかった。しかしそうはならなかったので、今ヴィットリオは、プロの芸術家として真剣に打ち込むことができる。有望な若いテノールは、10年前にローマ歌劇場の《トスカ》の羊飼いの役でデビューした。ルチアーノ・パヴァロッティとブルガリアのソプラノ、ライナ・カバイヴァンスカとの共演だった。皆は、なんの怖れも不安もなく、一流の舞台に立ち向かったその声に驚嘆した。まさにその時、モデナ出身の偉大なテノールは、ヴィットリオのために称賛と感嘆の言葉を述べた。その日から、彼はパヴァロッティーノというニックネームになった。

ここ数日、ヴィットリオ・グリゴーロは、モーツアルトの《ドン・ジョヴァンニ》のドン・オッターヴィオと《椿姫》のガストーネの役に専念していた。リハーサルと歌うことから解放されても、特に軍隊式の気を付けの姿勢で"Signorsì signore"を叫ぶために芸術的参加を中断することを強制されない。(2000年5月1日"STOP"Mattia Meis記事)

『徴兵免除第一号』自分で勝ち取ったものなんですね。さすが、政治学の学位をとっているだけのことはあります。初舞台で、その素晴しい声だけでなく、その堂々ぶりに周りの大人たちが驚嘆したということですが、これってオペラ歌手としての適性があるかないかの分かれ目かもしれません。

★徴兵に関しては、wikipediaの徴兵制度が参考になりますが、イタリアの項目はこちらの外務省が正しい。
イタリアの兵役: 2004年末までは徴兵制。2005年より完全志願制に移行(志願制の任期は、1年〜4年の期限付と終身の2種)(外務省/イタリア/国防より)
イタリアでも、武装部門への配属を拒否する徴兵義務者には、福祉・教育などの代替的市民サービスにつくことが認められ、期間は兵役期間と同じ10カ月で、給与も同等に支給されていた。
今現在ヨーロッパ諸国で徴兵制を存続させているのは、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、 オーストリア、フィンランド、 ノルウェー、 スイス、ロシア だそうです。

備忘録:naja=Servizio militare(徴兵)

タグ:徴兵 免除
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コメント 2

euridice

ペーター・ホフマンの軍隊時代関連の記事をいくつかTBしますので、
よろしくお願いします。

義務兵役が廃止されるのはいい傾向だと思います・・
軍隊というものの存在が避け難いものであるとすれば、
職業選択肢のひとつとして軍隊というのがあってもいいとは思いますが、
向いていない、やりたくない仕事を無理矢理させるのは
民主主義の国なら保障されているはずの人権侵害でしょう。

全員に義務として課しながら、病気、障害といったマイナス要因以外の
特殊要因によって、その義務を免除するのは、義務というものがまるで罰のような印象を与えるので非常に問題だと思います。イタリアは間もなく義務兵役廃止となったわけですから、自由選択への過渡的措置だったと言えるかもしれません。

最近、格差助長によって底辺に位置づけられた者が軍隊へと誘導されている・・だから今や義務兵役等不必要・・といった内容の本を読みました。この辺りの問題の複雑さには暗澹としてしまいます。

by euridice (2008-08-16 22:03) 

keyaki

euridiceさん
TBありがとうございます。
オペラの勉強をするために軍隊に残ったペーター・ホフマンとオペラの勉強を中断したくない、続けたいために徴兵義務免除を選択したグリゴーロですが、目的は一緒.....
ペーター・ホフマンが軍隊にいた頃は、ドイツがどこかに派兵するということは考えられなかった時代だったんでしょうね。じゃないとオペラの勉強どころではないですから。

ペーター・ホフマンが、パラシュートが好きなら、グリゴーロもパラグライディングが趣味、やっぱりなんか共通性がありますね。
グリゴーロが今後ペーター・ホフマンクラスの歌手になるかどうかはわかりませんが.....

>全員に義務として課しながら、病気、障害といったマイナス要因以外の
特殊要因によって、その義務を免除するのは、義務というものがまるで罰のような印象を与えるので非常に問題だと思います。
このイタリアの免除の法案が提出されたいきさつがどういうものであったかはわかりませんが、確かに、平等の原則に反するんでしょうが、それでも個人的な理由を認めるということもあっていいのではないかとおもいます。しかし、1998年に発令されてグリゴーロまで誰も適用されなかったというのも、 euridiceさんがおっしゃているように問題有りということだったのかもしれません。
グリゴーロの言う通り、外国に逃げたり、裏から手を回したりの徴兵拒否ではない、法律に従ったものだ....ということですが、それでもなんでアイツだけが、ちょっと声がいいからって免除されるんだ..という風当たりもかなりあったのではないかと推察されます。記事にも「羨望の的」とありますが、もっと強い意味合いの表現でしたが、なんて訳していいのか語彙不足で、「羨望の的」にしたんですけど。
それだけに、オペラ歌手として、成功して、イタリアの伝統文化を守りたい、という思いも強いのかな、と思います。
グリゴーロの今までの経歴をみると、行事への参加が目立ちますが、それも兵役免除の代償と考え、忙しくても協力するという立場をとっているせいかもしれません。
by keyaki (2008-08-17 09:34) 

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